人類は、文字も数字も無く、農業や牧畜も始まっていない3万年以上も前から絵を描いてきました。その行為は、時代が流れ、社会が変わり続ける中でも消えることなく現在に至っています。また、太古に描かれた洞窟画をアートの原初であるとするならば、アートも途絶えることなく現在まで連綿と続いています。戦争があっても、経済恐慌が起きても、大災害や疫病で大勢の人が倒れても人類はそれを手放しませんでした。これは、絵を描くことやアートが私たち人類にとって欠かすことの出来ないものであることを物語っています。
人はなぜ絵を描くのか? アートとは何か?
この疑問が私をアートへと誘い、アーティストへの道を進ませました。そして私は作品の創作だけではなく、疑問を解くためのさまざまな活動も行って来ました。それは同時に、社会におけるアートの可能性や存在価値の探求でもありました。EGAKUはその探求の中でアートの原点に立ち返りつつ、私の経験を通じて実感したことを元に考え出した、アートによるアートのプログラムです。それはそもそもアートとは優劣を競い合うものではなく、それが目的でもないということを子ども達に伝えたい、という想いから、最初は子どもを対象としたワークショップとして生まれました。そのためEGAKUプログラムにおいて、受講者は学校の図工や美術の科目のように評価されることはありません。
学びとしてのアートへの取り組みは、「鑑賞」と「創作」の二つだけです。アートは、年齢や段階によって変化したり、難解になっていく他の一般的な学びとはこの点が大きく異なり、更にこの繰り返しは人の創造性と感性の育成に多大な影響を与えます。創造性や感性は「人間を人間たらしめるもの」の資質であり、能力であり、人間成長やこころ豊かな社会創造にとって極めて有用な要素です。一方で、まっさらな画面からその人独自の想いや思考、物語が色と形によって立ち上がる体験はアートならではのダイナミズムです。それはまさに創造の歓び。この歓び(苦しみも含めて)によって得られる「自分もやれるんだ。創れるんだ。」という実感は生きるための勇気とエネルギーになるはずです。
世界においてさまざまな社会問題が山積している今日、その解決に、あるいは解決を見出すプロセスにおいて、アートが果たす役割も決して少なくありません。民族や国を越えたボーダレスなコミュニケーションツールとしての役割も、より重要さを増してくるでしょう。アートが、ひいてはEGAKUが、多くの人々の創造性と感性に働きかけ、こころ豊かな暮らしや活き活きと働くための一助になることを、私は信じ、願っています。
背景
アーティスト谷澤邦彦が美術大学で教えていた経験から、クリエイティブなことを学ぶ美大生でさえも「正しい答えを探す」思考が強い傾向に問題意識を感じ、学びとしてのアートの原点に立ち返って考案した創造性回復プログラム。不定期ではあるが、2002年に子ども向けから開始し、2004年よりおとな向け(主にビジネスパーソン)にも実施する。2008年からは92art Studioにておとな向けの定期開催が本格的に始まり、企業・組織への導入もされるようになる。また、小学生から大学生・院生までを対象としたプロジェクト「EGAKU for Kids & Youth」を立ち上げ、学校や企業、団体とのコラボレーションによる実施も始まる。
問題意識の高い経営者やビジネスパーソン、社会起業家、コンサルタント、人材育成担当者などに絶大な支持を受けて口コミで広がり、受講者は延べ1万人(2015年時点)を超える。
導入実績 大手企業を中心に150社以上