EGAKU受講者
インタビュー

南 和宏 さん
教育研修会社 マネージャー

連続して描いていったらどうなるんだろう。

interview

2011年5月、震災後初めて東京大学で行われたEGAKUに、自分と向き合おうと思って参加したのが初めてです。その後も定期開催に気が向いたら参加していましたが、半年以上あけた2012年、新年の「描き初め」からトツキトオカを始めました。
小学生の頃から絵を描くのが好きだったのもありますし、周りにもトツキトオカをやる人が増えてきて、自分でも連続して描き始めたらどうなるんだろうと思ったのがきっかけでした。
始めた年は仕事がものすごく忙しかったんですよね。毎日仕事しかしていない状況とか、土日も仕事で埋まってしまうというのはつまらないと思う一方で、プロジェクトではアウトプットを短期間で出さなければならないから追い詰められてもくる。そんな状況の中で、逃げ場を求めてここにきたところもあるのかもしれません。

最初は「説明しよう」という気持ちが強かった。

振り返ると、始めてから10回描き終えるまで結構時間がかかりました。変化もいろいろあったし、その時その時で画風が違っていますよね。
最初の方は「わかってほしい」、「何を描いているか、聞かれて答えられるように」と描いていたような気がします。そして上からどんどん色を重ねて余白がないように、画面を埋めるように力一杯描いていました。重ねていくので、最初と全然違う絵になっていたり、絵を回してみて、見えてきたものに顔を描いてみたりと、落ち着きがなかったように思います。とにかく足し続ける、描き続ける、重ね続ける。ずっとそんな画風が続いた感じでしたね。
後から気づいたんですが、途中から「説明しよう」という意識はあまりなくなっていきました。トツキトオカをやり始めた時は「やりたいことが多すぎてどうしよう。どれからやったらいいだろう」という感じだったんですが、途中から引き算というか、自分は「何をやらないか」というのを決めた方が心がスッキリする、いいなという感覚を持つようになりました。

そして2014年8月に法人営業部門に異動して、描く作品の方も色が明るくなっていきました。自分は元々営業だったということもあって、新規のお客様にどんどん広げていく役割になったことで心も明るくなったんだと思います。自分の得意領域というか、そこに強みがあるというか、自信も出てきたのがこの時期でした。時間と心にゆとりができて、自分の強みにも気づけて、会社を辞めて一人で何か始めたとしても何とかなるなということを思えた頃ですね。怖れがなくなり、意外と何もなくても足元さえしっかりしていれば大丈夫という自信を持ち始めた時期でした。

人って、こんなに変われるんだ。

更に1年経っていよいよ新しいことを何かやりたいなあと思っていたら異動になって、マネージャーになりました。
今、自分がマネジメントしているチームは、メンバーが女性ばかりで、時短や時差勤務の人がいて、雇用形態も違うわけです。以前なら、18時前に帰るなんて理解できなかったと思うんですよね。でも、彼女たちって、みんなとてつもない集中力で全然敵わないですね。お昼はお弁当を15分でさっさと済ませて、すぐ仕事に取り掛かり、その代わり17時半には絶対きっちり帰るとか。子供を持っている女性の力ってすごいんですね。実際めちゃめちゃ働いてすごい成果を出している。
そこで気がついて、こういう人たちの邪魔をしちゃいけないな、彼女たちが働きやすく、成果をもっと出せる運営ができたらいいなと思うようになったんです。メンバーにとって、長い人生から見た今の仕事の位置付けがどういうものかをきちんと確認した上で、マネジメントするようになりました。

ダイバーシティの重要性って、言葉では理解しているつもりなんですけれど、つい忘れてしまうんですよね。実際、自分がダイバーシティな環境に入ってみて肌身で感じて、更にトツキトオカで他の方の作品や鑑賞コメントに触れて、それが繋がる感じですね。
「人ってやっぱり違うな。」「どういうプロセスで描いているんだろう、自分の発想には絶対ないよな。」というのをここに来るたびに思わされるんですよ。
ただ、確かに絵を描いて「違いが大事だ」というのは認識するんですけれど、本当に腹に落ちるためには、それを自分が経験しないとつながっていかないなというのは実感しました。絵で描いて、実際にも経験するというプロセスが大事だと思います。
そうやっていたら、自分の強みを発見するストレングスファインダーで、5年前にはまるでなかった『いろんな人の違いを理解して生かす志向』が出ていたんです。人って、こんなに変われるんだなというのが我ながら衝撃でした。
最近会社も外国人が増えてきているので、そういう人まで含めて、自分がマネジメントできるようになりたいなという風に思っています。

心穏やかにいることが新しい事へのエネルギーになる。

interview

描くことが、日常に影響を与えることはあると思っています。
毎日いろいろなことを考えてはいても、自分についてまっさらに考える時間ってあるようでないんですよね。たまに移動時間とかに考えてみるんですけど、5分とか10分が精一杯でしょう。1時間こすり続けながら、自分に向き合いながら、何かを描くなんてこと、ここでしかできませんよね。
改めて自分が大事にしていることを表出させて再確認し、さらに自分について考える。おぼろげに考えていることが、絵を描くことで表出してきて、リアルに人生にあった出来事で再確認する。
そうやって絵を描くこととリアルの人生を行き来するうちに、私自身、ベースとして心穏やかにいることが新しい事をやろうとするエネルギーにつながるんだと気づきました。ちょっと相反するようだけれど、仕事を一生懸命やるために、日常生活をきちんとしようという風になりました。マネージャーになってから睡眠時間6時間はキープしようとか。そういうところから全ては始まるんだと思っています。
描くことでそういうことに気づかされたというのが面白かったですね。

体裁を気にせず本質に迫った質問で人とつながれる。

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この場が好きな理由の一つが、普段、左脳ばっかり使っているんだろうという人がたくさん参加していること。わざわざ平日のこの忙しい時間を使って来ているんだろうという集まりというのが面白いんですよね。
定期的に描いていると、同じように定期的に描いている人たちがいるので、「絵が変わったな」とか「何か変化があったのかな」みたいに他の人に興味を持つようになるんです。属性とか関係なく、何か素朴な、そして本質に迫った質問をすることができて、鎧をとった状態で体裁を気にせず話ができる。そういうつながりもできて面白かったですね。

小さな変化でも絵を通して振り返られるので自信が持てます。

今トツキトオカを終えてみて、もう一周トツキトオカをやってもいいかなと思っています。定期的にこういう機会がないと、自分のことをきっちり考えるっていう時間は持ちにくいと思っています。
単発だと心や時間に余裕がある時に申し込むじゃないですか。だから、いい自分を描けるわけですよ。たまに描くと今日はさあ何を出そうという風に思っちゃったりするわけです。でも10回描き続けることにコミットすると、いい時も悪い時もあるわけです。いろんな自分がいるから、「来月もあるんだから描きたいものを描こう、スペシャルな感じじゃなくて、今日描きたいものを描こう」と思えるんですよね。 よそ行きの自分ではなく、自分の持っているものを出す。格好つけずに描く、それが継続して描くことの良さだと思います。

今の時代、特にこうやっていれば大丈夫みたいなのがないじゃないですか。自分を振り返って考える場がないまま、目先の価値が出てるからいいとやっていると、30代40代で不安になってくる。同じ1年でもそういう場を持つかどうかで、全然 質が違ってくるんじゃないでしょうか。

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だから、いろんなことがあるタイミングで、絵をベースに自分の人生を振り返れたのは面白かったなと思います。いやー、あの時は吐きそうだったなとか、きつかったなあとか。そういうのって何かがないと振り返らないんですよね。そこに自分がどういう意味合いを持たせるかだと思うんですが、それが絵を通してみると出て来やすくなるんだなと感じています。
そして絵を描き続けることで、過去にこうやって積み上げてきているんだから大丈夫、みたいな自信を持てるような気がします。
自分は何をやってきたんだろうっていうと、結構大きいことで振り返りがちなんですけど、小さな変化でも、自分がこうやって変わってきているとか、階段を上ってきたというのを絵を通して振り返りながら自分で解釈できるので、振り返りのツールとして本当にいいなと思います。

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